ローマ字はだいぶ打てるようになった。タイピングゲームのスコアも上がってきた。それなのに、いざ文章を書かせてみると手が止まってしまう——教室でよく見る光景です。原因はたいてい、ローマ字ではありません。「変換」「確定」「日本語と英語の切りかえ」という、文字を打つ以外の操作です。
私が教室で大切にしている考え方は1つだけです。知らないのだから、分からなくて当然。だから、キーの「場所」から教える。この記事では、その教え方を順番に紹介します。
なぜ、ローマ字が打てる子でもここで止まるのか
理由は単純で、だれにも教わっていないからです。タイピングゲームは、打ったキーがそのまま正解かどうかを判定します。変換も確定も必要ありません(カタカタランドの花火タイピングも同じです)。つまり、ゲームでどれだけ練習しても、変換と確定の操作には一度も出会わないのです。
大人は長年の経験で、スペースキーをおせば変換される、Enterで決まる、と体で覚えています。当たり前すぎて、教える必要があることに気づきません。ところが子どもから見ると、スペースキーには何も書いてありませんし、「半角/全角」という漢字は読めません。「変換して」と言われても、どのキーのことなのか分からないのです。
ですから、「なんで分からないの」ではなく、「このキーだよ」と指さして見せる。それが出発点になります。
まず覚えるキーは4つだけ
日本語の文章を打つために必要なキーは、たくさんあるように見えて、最初は4つで足ります。場所といっしょに覚えてしまいましょう。
教えるときのコツは、キーの名前ではなく「場所」と「形」で伝えることです。「半角全角キー」と言うより「左上のすみっこのキー」。「スペースキー」と言うより「いちばん下の、長いキー」。低学年の子には、そのほうがずっと早く伝わります。4つともキーボードの「はしっこ」にあるので、さがしやすいのも助かる点です。
教える順番:「いぬ」を「犬」にするまで
4つのキーの場所が分かったら、短い言葉を1つ、最初から最後まで通して打ってみます。おすすめは「いぬ」です。
- I N U と打つ。画面に「いぬ」と出て、文字の下に線がついていることを一緒に確かめます。「この線があるあいだは、まだ決まっていないよ」と伝えます
- いちばん下の長いキー(スペース)を1回おす。「犬」に変わります
- ちがう字が出たら、もう一度スペース。おすたびに次の候補に変わります
- 合っていたら、右がわの大きいキー(Enter)をおす。下の線が消えたら、決まった合図です
大事なのは、2番と4番のあいだで「線がある=まだ変えられる」「線が消えた=決まった」という画面の変化を見せることです。キーをおす順番だけを覚えさせると、少し状況が変わっただけで分からなくなります。画面の線を見るくせがつくと、自分で「いま、どの状態か」が分かるようになります。
よくあるまちがい:変換する前にEnterをおしてしまう
「いぬ」と打ってすぐEnterをおすと、ひらがなのまま決まります。これはまちがいではなく、ひらがなで書きたいときの正しい操作です。「ひらがなのままでいいときはEnter、漢字にしたいときは先にスペース」と整理して伝えると、混乱がおさまります。
よくあるまちがい:Enterを何回もおしてしまう
1回目のEnterは「文字を決める」、決まったあとのEnterは「行を変える」や「検索する」という別のはたらきになります。検索の言葉を打っているとちゅうでEnterを連打して、半分だけの言葉で検索してしまう子はとても多いです。「線が消えたら、もうおさなくていいよ」と伝えます。
日本語と英語の切りかえ:見る場所を教える
「inu と打ったのに、ひらがなにならない」というときは、英語を打つモードになっています。左上のすみのキー(半角/全角)を1回おすと、日本語を打つモードにもどります。
ここで一緒に教えたいのが、いまどちらのモードなのかを確かめる場所です。Windowsなら、画面の右下に「あ」か「A」の小さな文字が出ています。「あ」なら日本語、「A」なら英語です。打ち始める前にここを見るくせがつけば、「なんか変になった!」とあわてる回数がぐっと減ります。
- Windows:キーボード左上の 半角/全角 キーで切りかえ。画面右下の「あ」「A」で確認
- Chromebook(学校の端末に多い):スペースキーの右の かな で日本語、左の 英数 で英語
- Mac:Chromebookと同じく、スペースキーの右の かな と左の 英数
学校と家でパソコンの種類がちがうと、切りかえのキーもちがいます。「学校ではこのキー、家ではこのキー」と、両方の場所を一度見せてあげてください。それでも直らないときは、設定のほうが変わっているかもしれません。よくあるキーボードトラブルの直し方を見てください。
カタカナにしたいとき
「らいおん」を「ライオン」にしたいときも、基本はスペースキーです。変換の候補の中にカタカナが出てきます。Windowsでは、文字の下に線があるあいだに F7 キーをおすと、一発でカタカナになります。ただし、これは4つのキーに慣れてからで十分です。最初からたくさん教えると、どれも残りません。
練習のしかた:自分の言葉を3つ打つ
変換と確定は、タイピングゲームでは練習できません。練習の場は、ふだんの「打つ用事」の中にあります。教室で子どもたちが自分から打ち始めるのも、ゲームの中の看板に文字を書きたい、調べものをしたい、といった自分の用事があるときです。おうちで試すなら、たとえば次のような短い課題がおすすめです。
- 自分の名前を、漢字で打つ
- 好きな食べものを3つ、漢字かカタカナで打つ
- 調べたいことを、検索のらんに打つ
メモ帳のような、文字を打つだけのアプリで十分です。1回に打つのは2〜3語。「線が出た→スペース→Enter→線が消えた」の流れを、自分の言葉で何回か体験すると、操作の流れがつかめてきます。キーそのものを速く正確に打つ練習は、これまでどおり花火タイピングのようなゲームで続ければ大丈夫です。
まとめ
- 変換や切りかえで止まるのは、教わっていないから。分からなくて当然
- 最初に覚えるキーは4つ。名前ではなく「場所」と「形」で教える
- 文字の下の「線」を見せる。線がある=まだ変えられる、線が消えた=決まった
- 日本語と英語のどちらのモードかは、画面の「あ」「A」で確かめる
- 練習は、自分の名前や好きなものなど、自分の言葉で2〜3語から
ローマ字そのものでつまずいている場合は、子どもがタイピングでつまずく5つのポイントや、「ん」「っ」「ー」の打ち方もあわせてご覧ください。