「まだローマ字も習っていないのに、タイピングなんて早すぎない?」——保護者の方から、よくいただく質問です。結論から言うと、私の教室では小学1年生から、少しずつタイピングを始めています。学校でタイピングに取り組むより前に、キーボードにさわり始める子がほとんどです。
この記事では、ローマ字がほぼ読めない状態の子に教室で最初に何をしているのか、どのくらいで表を見ずに打てるようになるのかを、現場の実感のままにお伝えします。「早く始めれば早く上達する」という話ではないので、その点も正直に書きます。
教室に来る子の「スタート地点」
小1で教室に来る子の多くは、ローマ字がほぼ読めません。「あ」が A だということも知らない状態からのスタートです。学校でローマ字を習うのは小学3年生ごろなので、これは当たり前のことです。
それでも始められるのは、低学年のタイピングの目的が「速く打つこと」ではないからです。この時期のねらいは、キーボードという道具をこわがらなくなること。どこに何のキーがあるのかを、なんとなく体で知っておくこと。それだけで十分だと考えています。
はじめてキーボードの前に座った小1の子は、たいてい人さし指1本で、おそるおそるキーにさわります。そして面白いことに、ほとんどの子がアルファベットではなく、キーに小さく書いてある「ひらがな」のほうで文字をさがそうとします。「あ」を打ちたいから、キーボードの中から「あ」の字をさがす。読める文字をたよりにするのですから、子どもにとってはごく自然な行動です。
ここで「ひらがなの字は見なくていいんだよ。ローマ字表でアルファベットをさがそう」と伝えるところから、教室のタイピングは始まります(ひらがなの印字をそのまま使う「かな入力」との違いは、ローマ字入力とかな入力、どっちがいい?で説明しています)。
最初にやること:ローマ字表を横に置いて、ゆっくり打つ
特別な教材は使いません。やることはとてもシンプルです。
- ローマ字表をキーボードの横に置く(印刷できるローマ字表はこちら)
- 打ちたい文字を表でさがす
- そのアルファベットをキーボードでさがして、押す
- これを、あせらずゆっくりくり返す
表を見ながらで、まったく問題ありません。「覚えてから打つ」のではなく、「表を見ながら打っているうちに、よく出てくる文字から覚えていく」という順番です。最初から暗記をさせようとすると、タイピングがただの勉強になってしまい、低学年の子は続きません。
教室でタイピングに使う時間は、1回のレッスンで5分ほどです。短いと感じるかもしれませんが、低学年の集中力を考えると、これくらいがちょうどいい長さです。いやになる前に切り上げるほうが、次回も気持ちよく取り組めます。
表を見ずに打てるようになるのは、いつごろ?
ここは正直にお伝えします。「何か月で覚えます」とは言えません。人によってまったく違います。
ただ、教室で見ていてはっきり分かる傾向が1つあります。それは、学校でローマ字を習うタイミングで、一気に覚える子がほとんどだということです。それまで表を見ながらゆっくり打っていた子が、学校の授業でローマ字のしくみを理解したとたん、表を見る回数がぐっと減っていきます。
では、小1から始める意味はないのでしょうか。私はあると考えています。ローマ字を習った時点で、すでにキーの場所をなんとなく知っていて、キーボードに苦手意識がない。この状態でスタートできる子は、「ローマ字を覚えること」だけに集中できます。キーボードに初めてさわる子は、「ローマ字」と「キーの場所」の2つを同時に覚えなければなりません。
この時期の子は、教室に来るなり「ローマ字おぼえたんだよ!」と、自分から打って見せてくれます。覚えたことを自慢したくてしかたがない、という様子です。ローマ字表に目をやる回数が減るぶん、打つ速さも目に見えて上がっていきます。「見せたい」という気持ちがそのまま練習になっているので、大人が何かをさせる必要はほとんどありません。
伸びるのが早い子に共通する2つのこと
同じように教室に通っていても、伸び方には差が出ます。早く伸びる子には、共通点が2つあります。
- 家でもキーボードにさわっている:教室での5分だけより、家でも打つ機会がある子のほうが、やはり早く慣れます
- 「打ちたいもの」がある:好きなことを検索したい、自分の名前を打ちたい——本人の中に打つ理由がある子は、教えなくても自分からキーをさがします
逆に言うと、練習の「量」を大人が管理する必要はあまりありません。私は家庭での練習について、特に指示を出していません。「毎日◯分やらせてください」とお願いするより、お子さんが打ちたくなる場面を1つ作ってあげるほうが、結果として長く続きます。
教室でいちばんよく見るきっかけは、ゲームの「マインクラフト」です。ゲームの中の看板に文字を書きたい、使いたいブロックやアイテムを名前で検索したい——そのために、だれに言われるでもなく自分からキーをさがし始めます。練習用の言葉は打ちたがらない子が、自分の看板に書く言葉なら一生けんめい打つのです。きっかけはゲームでも調べものでもかまいません。「自分の用事のために打つ」経験が、いちばんの上達のもとになります。
指づかいは、最初から直さなくていい
「人さし指だけで打っているけれど、今のうちに直したほうがいいですか?」という質問もよく受けます。教室では、打つことに慣れてから、少しずつ直すようにしています。
ローマ字もキーの場所も分からない段階で、さらに「この指で押しなさい」まで求めると、子どもは一度に考えることが多すぎて固まってしまいます。まずは「打てた!」という体験を優先し、キーの場所に慣れてきたところで、F と J の出っぱりに人さし指を置くところから始めます(→ ホームポジションの覚え方)。
「手が小さいから、正しい指づかいは無理では?」という心配も聞きますが、ゆっくり打てば、低学年の手でも困ることはありません。届かないのは、速く打とうとして手全体が動いてしまうときです。ブラインドタッチ(キーボードを見ないで打つこと)は、いずれ必要になる技術ですが、低学年のうちに急いで完成させるものではありません。
低学年の子がカタカタランドで始めるなら
カタカタランドを作ったきっかけは、教室で使えるタイピングサイトをさがしたとき、低学年の子には難しすぎるものが多かったことでした。具体的には、次の3つでつまずきます。
- お手本のローマ字が小文字:低学年の子は、まだ小文字(a・b・c)が読めません。しかもキーボードの印字は大文字です。画面の
aとキーのAが同じ文字だと分からないのです - お題の漢字が読めない:ふりがながないと、何を打てばいいのかが分かりません
- キーの場所が分からない:打つ文字が分かっても、それがキーボードのどこにあるのかをさがすのに時間がかかり、その間に時間切れになってしまいます
そこでカタカタランドでは、この3つにそれぞれ対応する機能を入れました。
- 大文字で表示する設定:ゲーム画面の「大文字で表示」にチェックを入れると、お手本のローマ字がキーボードの印字と同じ大文字になります。低学年向けのどうぶつタイピングでは、最初からオンになっています。ほかのコースで使うときは、チェックを入れてください
- お題にはいつも、ひらがなの読みがつく:漢字やカタカナのお題でも、すぐ下にひらがなで読みが出ます
- キーボードガイド:次に打つキーが画面の中のキーボードで光るので、「どこにあるの?」とさがす時間が短くなります
- ミスしてもゲームオーバーにならない:まちがえても止まらず、最後まで打ち切れます
最初の1歩には、「いぬ」「ねこ」など2〜4文字の短い言葉が中心のどうぶつタイピングがおすすめです。
1プレイは1分間で、タイマーは最初のキーを打ってから動き始めます。ローマ字表を横に置いて、準備ができてから始められます。
まとめ
- 小1から始めても早すぎることはない。ただし目的は「速さ」ではなく「キーボードに慣れること」
- 最初はローマ字表を横に置いて、見ながらゆっくり打つだけでいい
- 表なしで打てるようになるのは、学校でローマ字を習う時期が多い。それまではあせらない
- 伸びる子は、家でもさわっていて、打ちたいものがある
- 指づかいは、慣れてから少しずつ直す
ローマ字を習ってからつまずきやすいポイントは、子どもがタイピングでつまずく5つのポイントにまとめています。あわせてご覧ください。